「うちは大丈夫」「兄弟仲は悪くない」「親のことをきちんと看取った」 そう思っていた方でも、相続をきっかけに家族関係が一変してしまうことがあります。
今回ご紹介するのは、ある60代男性の体験です。
三きょうだいに起きた、思わぬ相続トラブル
彼は三人きょうだいの次男。 長男は幼い頃に事故で亡くなり、現在は姉と妹がいます。 自身は結婚後、実家を離れて暮らしていました。
ある時、母親が心臓の手術を受け、療養が必要になりました。 それに加えて、不景気の影響で妹の夫が失業。 困窮した妹夫婦は、実家の母に毎月10万円の援助を求めるようになったといいます。
彼は親にこう言われました。 「金銭援助を続ける代わりに、将来私たちが困った時には介護を頼むよ」 彼は承諾し、それから数年が経ちました。
管理を任された妹、知らされなかった現実
母は脳出血で倒れ、要介護4に。 父も視力を失い、要介護2に。 財産や生活費の管理は、近くに住む妹が一手に引き受けるようになりました。
その後、妹の夫が亡くなり、両親も他界。 相続の話が始まったとき、問題が表面化しました。
姉は以前、住宅購入のために3,000万円の贈与を受けており、 さらに実家の金庫から現金300万円を持ち去ったことが判明。 妹も、建物の解体費用や住宅資金として両親から計3,500万円近く受け取っていた。
信頼の崩壊と、家族関係の断絶
一方、彼にはそうした特別な贈与はなく、ただ若い頃に親名義の土地を自分名義に変えただけ。 しかし、その土地すら、姉妹の協議で遺産分割の対象にされてしまったのです。
銀行口座は勝手に解約され、相続財産の全貌も見えないまま。 「すべては妹が管理していた」という一点張り。 ついには家族との関係が崩壊し、彼は離婚、子どもたちとも疎遠になってしまいました。
この体験から学べる3つの教訓
「家族は一度壊れると、もう戻らない」
そう彼は語っていました。
この体験から学べることは明確です。
・親の財産管理を一人に任せてはいけない
・特別受益(贈与)などを家族で共有しておくべき
・財産の問題が感情を引き裂く前に、親が対話の場をつくっておくこと
心をつなぐ終活という選択肢
家族の絆は、決して“自然に保たれるもの”ではありません。 努力と工夫、そして「心の整理」があってこそ、守られるのです。
代理参拝や“気持ちの遺言”は、そうした「心の整理」の一つの形です。 法律だけでは守れない家族の絆を、どう残していくか。
それを考えるきっかけにしていただければ幸いです。
Office You 高田 有希子